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東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)135号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は第二引用例の記載内容の認定を誤つた結果、本件考案と第二引用例記載のものとの対比判断を誤り、ひいて、本件考案は第一引用例及び第二引用例の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである旨主張するが、右主張は、以下に述べるとおり、すべて理由がないものといわざるを得ない。

前記当事者間に争いのない本件考案の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案公報)を総合すると、本件考案は、輪転謄写機に使用する原紙の改良に関する考案であるところ、従来使用の輪転謄写機用原紙は、原紙の一面にミシン目を介して原紙の一端縁部に貼着した耳部を形成した保護紙を重ね、耳部の中央部に端縁と平行な多数の透孔を列設したものであつて、そうした原紙の取替えに当たつては、輪転謄写機に設けられている押え板9を立て、前に使用した原紙を取り外し、新しい原紙の耳部3の上下端部を両手の指頭でつまみ、原紙の透孔5、5を原紙止め板7のピン6、6に順次はめて挿し、更に押え板9を倒して新しい原紙を取り着ける操作を要するが、この場合、押え板9を倒すために一方の原紙の耳部から指頭を離すと、その部分の耳部が浮き上がつてピン6から透孔5が外れ、慣れないと思わぬ手数がかかり、また、誤つて原紙の耳部を押え板9で押圧してしまい、不要な折り目を付けてしまうほか、指頭を汚すおそれがある等の欠陥があつたことから、本件考案は、この欠点を解消することを目的として、本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したものであり、右の構成、特に、「少なくとも上下端部に近い二つの透孔15a、15bを輪転謄写機の原紙止め板に設けたピン6の外径16よりやや小径とした押圧端縁17を有する舌片18、18……を形成した異形透孔」とするという構成を採用することにより、ピンに挿入された透孔の舌片の押圧端縁は、ピンの外周に斜めに当たり、その弾力でもつてピンを挟持することとなり、叙上の欠点を克服し、所期の作用効果を奏し得るものと認められる。

ところで、第一引用例(第一引用例が本件考案の実用新案登録出願前に国内に頒布された実用新案公告公報であることは、原告の明らかに争わないところである。)に、本件審決認定のとおり、本件考案の要旨中の上位概念をなす輪転謄写機用原紙と同一のものである、ミシン目をもつ保護紙(台紙)を重ね合わせた原紙の耳部に数個の止め用の円形状透孔をあけた輪転謄写機用原紙が記載されており、また、第二引用例(第二引用例が本件考案の実用新案登録出願前である昭和二八年一月一六日特許庁資料館受入れに係るドイツ国特許第七一七四二〇号明細書であることは、原告の明らかに争わないところである。)に、本件審決認定のとおり、その第11図として輪転謄写機の止め金として押込みボタン式のピン形状の雄型を複数個設け、それに装着する原紙の耳部に右雄型に対応して嵌合する雌型の単純円形状と異形の二種の透孔を設けたものが図示されているところ、右雌型異形透孔には押圧端縁を有する弾力性の舌片が形成され、右雄型のピンの頭部が若干ふくらませた形状をなしていることは、原告の認めるところであつて、本件の争点は、第二引用例の雌形の異形透孔が雄型の外径よりも小さいかどうか、及びそれによる作用効果の相違にあるから、以下この点を検討するに、成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、輪転謄写印刷機の止め金に謄写原紙を固定する装置に関するものであつて、輪転謄写印刷機の止め金に原紙を固定する従来の方法の欠点を除くことを発明の課題とし、押込みボタンによる固定方法と公知の原紙耳部の切込みの組合せによりこれを解決したものであるところ、その第2図及び同図の説明によれば、同図には、押込みボタンの雄型に原紙耳部の弾力性を有する押込みボタンの雌型がぴつたりと押し込まれた状態が記載され、第2図の断面図である第4図には、頭部を若干ふくらませた円柱状のピンの基部に雌型異形透孔の舌片の押圧端縁がぴつたりと、すなわち隙間のない状態で当接している状態が図示されており、更に、第二引用例の押込みボタンによる固定方法の作用効果に関し、この新方法によれば、特別に指導を受けていない人々でも操作ができ、原紙が必然的にまつすぐにボタン止めされ、どの方向にも動かないように固定され、謄写中に持ち上がつたり、ずれたりせず、かつ、原紙を繰り返し使用しても、押込みボタンの上部が広がらないなどの利点があり(同号証第四頁第三一行ないし第四二行)、また、原紙を取り外す際にボタンの個々の要素を取り外す必要はなく、手で原紙を固定装置と直角に上へ引つぱるだけで充分で、このとき押込みボタンの孔部分をもつた原紙耳部とボタン下部分がある角度をなし、これにより両部分が自動的に離れる(同第四頁第六二行ないし第七二行)旨の記載があることが認められ、叙上認定の事実(特にその作用効果)に徴すれば、第二引用例においては、異形透孔の舌片の押圧端縁は、ピン(押込みボタン)の基部に単に当接しているというだけではなく、ぴつたりと、すなわち隙間のない状態で当接しており、前示の作用効果は、右の当接状態において、舌片の弾力作用がピン(押込みボタン)に対して働いていることによるものとみるべきである。そして、このような弾力作用が働くためには、ピン(押込みボタン)に挿通以前の状態において、異形透孔の孔径がピン(押込みボタン)の基部の外径よりも若干でも小さいことを必要とするものと解される。そうであれば、第二引用例には、原紙止め板に設けられた頭部が若干ふくらんだピン(押込みボタン)とその最も細い基部にぴつたりと当接した状態の押圧端縁を有する舌片を形成し、その径が右基部の径よりもやや小径の異形透孔を複数個有する輪転謄写機用原紙が記載されているものと解するのが相当である。原告は、第二引用例記載の第4図は、雄型に雌型が嵌合した状態を表したものであるが、雌型5の舌片端縁は、雄型10の軸に当接していて、原紙耳部1は、水平に描かれており、これは雄型の軸の径と雌型の舌片の一部により形成されている孔部とがほぼ同径であることを意味し、もし、舌片の一部により形成されている孔が軸の径より小であれば、端縁が断面において盛り上がる状態として描かれるはずであつて(例えば、甲第二号証の第14図及び第15図)、この図のように水平に描かれることはなく、第二引用例記載の異形透孔は、雄型の径と同一か、若しくはこれより大とみるべきである旨主張する。たしかに、前掲甲第二号証の第14図に示されたもの(別紙図面(一)第14図参照)と第二引用例の第4図に示されたもの(別紙図面(三)第4図参照)とを対比すると、異形透孔の舌片のピンの基部に対する当接の態様を異にしていることは原告主張のとおりであるが、異形透孔の孔径がピンの基部の外径よりわずかしか小さくない場合には、舌片の端縁がその断面において盛り上がる状態で描かれるものとは一概にいい難いのみか、前認定の第二引用例記載のものの奏する作用効果を参酌すると、右第4図の記載から、第二引用例記載の異形透孔が雄型の径と同一か、若しくはこれより大とみることはできないから、上叙原告指摘の図面の態様の相違は前段の認定説示を動かすに足りず、したがつて、原告の右主張は採用することができない。また、原告は、本件審決は、本件考案と第二引用例記載のものとの構成及び作用効果上の差異を誤認した旨主張するが、右主張は、いずれも第二引用例記載のものにおいて、「雌型の異形透孔は、雄型の外径よりやや小径とした押圧端縁を有する舌片を形成したものと認められる。」旨の本件審決の認定判断に誤りがあることを前提とするものであるところ、前認定説示のとおり、本件審決の右認定判断には何らの誤りもないから、その前提を欠くものであり、また、作用効果の点についても、前認定の事実によると、本件考案と第二引用例記載のものとは、その奏する作用効果において格別の差異はないから、原告の右主張は、いずれにしても採用することができない。

叙上認定説示したところによれば、本件考案は、第一引用例及び第二引用例の記載事項に基づいて、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるとみるのを相当とするから、本件審決の認定判断は正当というべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

原紙11の一面に、ミシン目12を介して原紙11の一端縁部に貼着した耳部13を形成した保護紙14を重ね、耳部13の中央部に端縁と平行な多数の透孔15、15・・を列設した原紙において、少なくとも上下端部に近い二つの透孔15a、15bを輪転謄写機の原紙止め板に設けたピン6の外径16よりやや小径とした押圧端縁17を有する舌片18、18・・・を形成した異形透孔として成る輪転謄写機用原紙。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)(省略)

別紙図面(三)

<省略>

<省略>

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